好酸球性副鼻腔炎

難病指定の好酸球性副鼻腔炎

難病指定の好酸球性副鼻腔炎好酸球性副鼻腔炎とは、多発性の鼻ポリープを伴い、従来の副鼻腔炎の治療に抵抗性のある難治性の副鼻腔炎です。好酸球とは、アレルギーとの関連が深い白血球の一種です。
「好酸球性」という名称がついていますが、好酸球が原因であるかは定かではありません。摘出した鼻ポリープに好酸球による浸潤が多数見られることから、この名称がついています。
好酸球性副鼻腔炎は、厚生労働省が指定する難病の1つです。ただ、薬物療法や手術療法による症状の軽減、再発の防止は可能です。
好酸球性副鼻腔炎にお悩みの方は、かわもと耳鼻咽喉科クリニックにご相談ください。

好酸球性副鼻腔炎の原因

はっきりとした原因は、現在のところ分かっていません。
都市部にお住まいの方、大人になってから喘息を発症した方に多く見られる傾向にあります。
好酸球という細胞の中には4種類の顆粒タンパク質が入っています。普段はこの顆粒が病原体を強く障害して体を防御していますが、勝手に好酸球が自爆(エトーシス)して顆粒をばらまいて自分の細胞を障害してしまうことがわかっています。今後はこのあたりのメカニズムが解明されていくと治療法が見つかるかもしれません。
参照URL:研究の紹介/アレルギー・好酸球性炎症の研究 (http://www.med.akita-u.ac.jp/~gimclm/research.html)

好酸球性副鼻腔炎の症状

好酸球性副鼻腔炎の症状

  • 粘度の高い鼻水
  • 鼻詰まり
  • 後鼻漏
  • 顔面が重い
  • 頭痛
  • 嗅覚障害

基本的に、慢性副鼻腔炎と共通した症状を持ちます。
特徴的なのは、多発性の鼻ポリープによる嗅覚障害です。においが分からない・分かりづらいといった症状です。
嗅覚は全くしない状態(脱失)が数年持続してしまうと、手術治療をしてももどりにくくなります。

好酸球性副鼻腔炎の検査

好酸球性副鼻腔炎の検査検査では、血液検査、CT検査、内視鏡検査などを行います。以下の項目を調べ、診断します。

  • 血液中の好酸球の数の増加
  • 篩骨洞(副鼻腔の一部)優位の副鼻腔炎がある
  • 鼻ポリープの有無
  • 鼻ポリープ中の好酸球の数
  • 気管支喘息の有無
  • アレルギーの有無
  • アスピリン喘息の有無
  • 好酸球性中耳炎の合併の有無

好酸球性副鼻腔炎の難病指定の診断基準・重症度について

診断基準

好酸球性副鼻腔炎の診断は、厚生労働省難治疾患克服事業における多施設共同大規模疫学研究 : Japanese Epide miological Survey of Refractory Eosinophilic Chronic Rhinosinusitis Study(JESREC Study)で作成したものが基準となります。
次の表のスコアにおいて、計11点以上を示す症例が好酸球性副鼻腔炎と診断されます。なお最終診断は、生検または病理組織にて、接眼レンズ22,400倍視野で観察し、3カ所の平均好酸球浸潤個数が70個以上認められた場合に確定となります。

好酸球性副鼻腔炎の診断基準(JESREC Study)
項目 スコア
病側:両側 3点
鼻ポリープあり 2点
篩骨洞陰影/上顎洞陰影 ≧1 2点
血中好酸球 2< ≦ 5% 4点
血中好酸球 5< ≦ 10% 8点
血中好酸球 10% < 10点
重症度の分類

好酸球性副鼻腔炎の診断を受けた症例は、さらに以下の基準に基づき、軽症・中等症・重症に分類されます。

重症度の分類

好酸球性副鼻腔炎(指定難病306) – 難病情報センター (nanbyou.or.jp)より抜粋

指定難病に対する医療費助成制度について

指定難病と診断された場合には、その病気の治療にかかる医療費の助成を受けることができます。
好酸球性副鼻腔炎の診断を受けた方のうち、以下に該当する方は、医療費助成制度の対象となり、助成を受けられます。

  • 好酸球性副鼻腔炎の重症度において、「重症」の診断を受けた方
  • 好酸球性副鼻腔炎の重症度において、「中等症」の診断を受けた方
  • 好酸球性中耳炎の合併がある方

    ※重症度については、1つ上の項目「重症度の分類」をご覧ください。

また、重症度が「軽症」であった場合も、医療費総額は33,330円(3割負担の方場合自己負担は約1万円)を超える月が、過去12ヵ月間に3回以上あった場合には助成の対象となります(軽症高額該当)。
※最終的な助成の認定は、各都道府県・指定都市が行います。
難病医療費助成制度に関するご案内についてはこちらをご覧ください。

好酸球性副鼻腔炎の治療

好酸球性副鼻腔炎の治療には、薬物療法、手術療法があります。

薬物療法

薬物療法好酸球性副鼻腔炎の鼻水はニカワ様といって、非常に粘性の高い鼻水になります。この粘性の高い鼻水が悪さをしているといわれていますので、生理食塩水による鼻洗浄にて洗い流していただくことが重要になります。
ステロイド点鼻薬(噴霧・滴下)の投与を行います。ステロイド点鼻で鼻のポリープが小さくなって鼻づまりが改善するというデータは発表されていますが、ポリープが大きい場合、効果はあまり期待できません。

点鼻薬で効果が得られない場合には、ステロイドの内服も検討します。ステロイドの長期内服は、全身的な副作用を引き起こすことがあるため、重症でなければ行いません。長期服用する場合は、糖尿病・白内障・骨粗しょう症・胃潰瘍・免疫力低下等がおこる可能性があり、それぞれ内科や整形外科と連携して治療していく必要があります。
喘息を合併している方には喘息用のステロイド吸入薬を鼻から吐き出す、経鼻呼出法をしていただくこともあります。ステロイド点鼻薬は鼻腔の前方にしか効果がでませんが、吸って鼻から吐く経鼻呼出をすると鼻腔の後方にステロイドが到達しやすいことが報告されています。きちんとできれば鼻ポリープが小さくなり、嗅覚が改善していくことが多いです。当院ではそのコツをお伝えしています。
慢性副鼻腔炎に対する一般的な治療であるマクロライド系抗生物質の投与は、あまり効果が期待できません。

分子生物学的製剤(デュピルマブ)の使用が2020年に「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎」に対して使用することができるようになりました。好酸球性炎症に関わるIL-4、IL-13という物質をブロックすることで炎症が起きなくなるというのがこの製剤の作用です。執筆している時点で、発売から1年以上経過していますが、とても効果のある薬剤です。誰にでも使用できるわけではなく、適応がきちんと決められています。はじめは2週間に一度の投与となりますが、3割負担で一回約2万円と高額になります。後述する高額療養費制度、指定難病に対する医療費助成制度を受けると負担額が抑えられることがあります。
参考:デュピクセントを使用される鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の患者さんへ|サノフィ株式会社 (https://www.support-allergy.com/crswnp/)

手術療法

手術療法鼻ポリープが多発している場合、薬物療法では十分な効果が得られない場合には、手術を行います。
内視鏡を用いて鼻ポリープや病的な粘膜を取り除き、鼻腔と副鼻腔の交通路を広くします。副鼻腔を大きく鼻腔内へ開放することがとても重要で、開放が不完全な場合は再発をしやすいことも報告されています。特に重症の好酸球性副鼻腔炎では副鼻腔内の浮腫がとても強く、不完全開放となりやすいために当院では全例ナビゲーションシステムを使用して、安全にかつ完全開放を目指して手術をおこなっています。

ナビゲーションシステム
についてはこちらから

術後は、ステロイドの投与(点鼻や内服)、鼻洗浄を行いながら経過を観察します。
また、術後は鼻腔と副鼻腔がつながっていることから、再発時や症状再燃時には外来処置で副鼻腔内へステロイドを留置する方法でも症状をコントロールできることがあります。

好酸球副鼻腔炎の診断ガイドライン(JESREC Study)では術後6年で半数が再発するといわれています。このデーターは術後治療を加味していないデータですので、重症度によっても異なりますが、術後もにしっかりと上記の保存的治療を継続することでより再発を防ぐことができ、また再発したとしても生活に支障のない程度に維持することができると考えています。

参考URL:好酸球性副鼻腔炎:診断ガイドライン(JESREC Study) (https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/118/6/118_728/_article/-char/ja/)

好酸球性副鼻腔炎の手術費用

手術名 保険点数 3割負担 備考
内視鏡下鼻・副鼻腔手術III型 24,910点 74,730円 2つの副鼻腔を開放
内視鏡下鼻・副鼻腔手術IV型 32,080点 96,240円 全ての副鼻腔を開放

保険点数は、片鼻に対しての点数です。
上記の手術費用に加えて、診察料、薬剤料、処方料などが加算されます。

難病指定になった場合の費用

難病指定となり、医療費助成制度を受ける場合の自己負担上限額です。

医療費助成における自己負担上限額(月額)
階層区分 階層区分の基準 自己負担上限額(外来+入院)※患者負担割合:2割
一般 高額かつ長期 人工呼吸器等装着者
生活保護 0円 0円 0円
低所得Ⅰ 市町村民税非課税世帯
本人年収~80万円
2,500円 2,500円

 

 

 

1,000円

低所得Ⅱ 本人年収80万円超 5,000円 5,000円
一般所得Ⅰ 市町村民税7.1万円未満 10,000円 5,000円
一般所得Ⅱ 市町村民税
7.1万円以上25.1万円未満
20,000円 10,000円
上位所得 市町村民税
25.1万円以上
30,000円 20,000円

難病情報センターの「医療費助成における自己負担上限額(月額)」を引用
難病医療費助成制度に関するご案内についてはこちらをご覧ください。

高額療養費制度についての費用

高額医療費制度とは、被保険者またはその被扶養者が、ある月に同じ医療機関で支払った自己負担額が、所得に応じた基準を上回ったときに、その超過分の払い戻しが受けられる制度です。
また、事前に手続きを行い「限度額適用認定証」の交付を受けていると、その医療機関でのお支払いの時点で自己負担額を基準までとすることができます。後に払い戻しを受けられるとはいえその一時的な高額のご負担を軽減したい方は、事前の申請をおすすめします。

高額療養費制度について
詳しくはこちら

好酸球性副鼻腔炎の合併症

好酸球性副鼻腔炎は、全身の好酸球が増多するためにアスピリン喘息や好酸球性中耳炎、好酸球性胃腸炎といった病気を合併することがあります。

アスピリン喘息

解熱鎮痛剤(NSAIDs)の内服薬や外用剤を原因として、喘息発作を起こす病気です。大人の喘息のうち、約1割がアスピリン喘息であると言われています。アスピリン喘息を伴う好酸球性副鼻腔炎は特に重症で、手術をしても再発しやすいことがわかっています。呼吸器内科を中心とした喘息の専門医に診てもらうことが重要です。

好酸球性中耳炎

耳だれ、難聴、耳の詰まった感じなどの症状が見られる難治性の慢性中耳炎です。
好酸球性副鼻腔炎と合併することが多い疾患です。中耳内に好酸球炎症の物質が貯留することが原因で難聴が生じますが、悪化すると内耳障害をひきおこして日常会話ができないぐらい難聴になってしまうこともあります。治療は、中耳中の炎症物質を除去するために鼓膜切開やチューブ留置をおこないます。また、中耳中にステロイドを投与したり、ステロイドの内服をしていただくこともあります。

好酸球性胃腸炎

好酸球が消化管に多く集まり、慢性的な炎症を引き起こします。食欲不振、吐き気・嘔吐、腹痛、下痢、体重減少などの症状が見られます。
好酸球性副鼻腔炎、好酸球性中耳炎と同様に、厚生労働省指定難病の1つです。

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