後鼻漏について
鼻水が喉の奥に落ちる(流れる・つまる)症状を、後鼻漏(こうびろう)と呼びます。後鼻漏について、その原因を説明するとともに、治療方法について説明したいと思います。
まずは鼻水について。鼻の中は粘膜で覆われており、一日に2~6リットルほど粘液が作られて粘膜を常に湿った状態に維持しています。粘膜の表面には繊毛(せんもう)という、目に見えない小さな毛が生えていて、粘膜の表面にある粘液を鼻から喉へ落ちます。ウィルスや細菌、ホコリなどをこの粘液で捉えて鼻から喉へ、そして胃へと流すことで体を守っているのです。この粘液がたくさんできた場合に鼻水になり、場合によっては鼻水が喉に落ちて「後鼻漏」になってしまいます。また、鼻水を出す細胞には2種類あり、それぞれさらさらとした鼻水(漿液性)とどろどろした鼻水(粘液性)を出しますが、鼻水はこれらが混ざってできます。
粘液性の鼻水の割合が増えた場合にも後鼻漏となることがあります。
こんな症状はございませんか
- 咳き込んで眠れない
- 鼻水が流れてきて気分が悪い
- 喉に不快感がある
- むせやすくなり、食事を楽しめない
etc…
鼻水が喉の奥に落ちる(つまる)後鼻漏の原因と治療法
鼻水が喉の奥に落ちる場合に考えられる原因・疾患は、下記となります。
①急性・慢性鼻炎
いわゆる風邪ですが、ウィルスや細菌が鼻に侵入してくると、それを排除するために鼻水が多くなります。はじめはさらさらとした鼻水ですが、体内の白血球という、体を守っている細胞がウィルスや細菌と戦っていくとどろどろとした鼻水、黄色い鼻水、緑色の鼻水となり、鼻から喉へ落ちる量が増えます。
治療法
数日間経過観察することで自然に治ることが多いですが、粘性の鼻水が増えてきた場合や7日程度持続する場合は抗菌剤を使用することがあります。
②アレルギー性鼻炎
ホコリや花粉などのアレルゲンが鼻に侵入すると、それを排除する働きがアレルギー反応で、鼻水がたくさん産生されます。鼻水が多くなることで喉に落ちる(つまる)鼻水の量も増えます。
治療法
治療は、薬物治療、免疫治療、手術治療があり、それぞれにメリットとデメリットがあるため症状に合わせて治療が選択されます。
③副鼻腔炎(蓄膿症)、好酸球性副鼻腔炎
鼻につながっている副鼻腔の中に炎症をおこすものです。後鼻漏の原因としては最も多い疾患と考えます。副鼻腔内にどろっとした鼻水がたまり、副鼻腔から鼻へ、そして喉へと鼻水が流れます。
治療法
治療は、鼻の洗浄、ネブライザー療法、抗菌剤の投与が行われますが、薬剤に抵抗性の場合は手術を行うことがあります。副鼻腔炎(蓄膿症)の中でも好酸球性副鼻腔炎は手術をしても再発することが多く、難治性の疾患です。
④上咽頭炎
鼻の奥は咽頭の一番上の場所にあたり、上咽頭と呼ばれます。上咽頭にはリンパ組織が豊富にあり、リンパ組織は免疫反応を起こして常にウィルスや細菌などの外敵と戦っています。大気中にはウィルスや細菌が無数にいるため、上咽頭は常に戦っている状態にあり、慢性の炎症をおこすことがあります。上咽頭炎になると後鼻漏をひきおこしますが、それ以外にも様々な自律神経障害を引き起こすことが知られています。
治療法
治療は、抗菌剤や鼻洗浄、直接上咽頭を消毒するBスポット療法などがあります。
⑤トーンワルト病
上咽頭に嚢胞(のうほう)といって、袋ができる疾患です。胎児のときに咽頭が形成される際に上咽頭に凹みが生じますが、そこに炎症をおこして嚢胞になってしまう疾患です。大人の4%以下で見られるという報告もあります。中に液体をためる貯留嚢胞と、溝に炎症をおこしてかさぶたが付着するタイプに分かれます。いづれも後鼻漏の症状を引き起こします。
治療法
治療は上咽頭炎に準じますが、嚢胞になっている場合は手術で摘出することもあります。
⑥逆流性食道炎・咽喉頭酸逆流症
食道と胃との間は筋肉の弁(噴門:ふんもん)みたいなものがあり、胃酸は食道に逆流することはありませんが、暴飲暴食、寝る前の食事、脂肪分の多い食事、妊娠、ストレス、刺激物、甘いものが好き、などが原因となって胃酸が逆流します。食道が胃酸によって炎症をおこすと胸やけ、呑酸です。胃酸が喉や上咽頭まで逆流すると咽喉頭酸逆流症と呼ばれ、咳、嗄声、耳痛、後鼻漏などの症状がでることがあります。
治療法
治療は胃酸の逆流を抑える薬を飲んだり、生活習慣を変えることで治ることがあります。
⑦鼻ポリープ
鼻内にポリープができ、さらに鼻から喉へ大きくなって発育することがあります。ポリープが上咽頭にあたることで後鼻漏として感じることがあります。
治療法
治療は基本的には切除が必要です。
⑧腫瘍
主には良性腫瘍ですが、ポリープではなく、鼻の中に腫瘍ができて、後鼻漏感を感じることがあります。
治療法
腫瘍の性質にあった手術治療が必要となります。
⑨感覚障害
レントゲン検査やCT検査、内視鏡検査など、詳細な検査をしても後鼻漏の原因がわからないことがあります。検査で判別できない程度の鼻内の繊毛機能の低下や、粘液性鼻汁の増加が原因と考えられますが、原因不明の病態の中には感覚障害があると考えられています。鼻汁は鼻から喉へ自覚することなく落ちていますが、その正常な流れを感覚として捉えてしまう場合に、後鼻漏となってしまいます。
治療法
正常な鼻水の分泌を止めることはできないため、安定剤や抗うつ剤などで症状をやわらげることがあります。
⑩加齢
年ととることで鼻や喉の繊毛運動の低下がみられ、体全体の乾燥に伴って粘液性鼻汁割合が多くなり、後鼻漏となることがあります。
治療法
治療の主体は去痰剤や粘膜にうるおいを与えるような漢方を使用することがありますが、症状を消失させることは困難で、緩和治療となります。
以上、後鼻漏の原因と、それぞれの治療について説明しました。後鼻漏の原因は画像検査や内視鏡検査で診断がつくことが多いですが、原因不明のものもあります。後鼻漏が続く場合は耳鼻科専門医で検査をしてもらうとよいと思います。
後鼻漏Q&A
後鼻漏は口臭の原因になりますか?
副鼻腔炎の中でも膿が副鼻腔に溜まっている場合は異臭を伴います。特に虫歯が原因の副鼻腔炎では異臭が強いことが多く、場合によっては口臭の原因にもなります。しかし口臭は副鼻腔炎以外でも起こりうるため、口臭=副鼻腔炎というわけではありません。
姿勢が悪い、咬み合わせが悪いと後鼻漏になる可能性はありますか?
後鼻漏にはいろいろな原因があると考えられていますが、原因がわからないこともあります。姿勢と後鼻漏の関係はあまりないと思われます。また、咬み合わせが悪いと口蓋の発達が悪くなって鼻づまりをおこすかもしれませんが、後鼻漏との直接な関係はないと思われます。
後鼻漏になると胸やけを引き起こす可能性はありますか?
後鼻漏が原因で喉の違和感、胸やけをおこすことはよくあります。
しかしながら逆流性食道炎があることで後鼻漏になることもあり、その際は後鼻漏からの胸やけではなく、食道炎からの胸やけを感じることがあります。
後鼻漏が原因なのか喉が枯れやすいのです。後鼻漏が治れば喉も治るのでしょうか?
後鼻漏が気持ち悪く、何度も粘液を吐きだしたり、咳払いをしたりすることで喉の粘膜が炎症を起こして声が枯れることがあります。その場合は後鼻漏が治ることで咳払いをする回数が減れば治る可能性もあります。また、後鼻漏の原因の一つとして逆流性食道炎があり、その際も喉がかれやすくなりますので、食道炎の治療でどちらも治ることがあります。
後鼻漏に効く漢方薬はありますか?
漢方薬の中では辛夷清肺湯という薬があり、自覚症状の改善度は90%以上という報告もあります。また、葛根湯加辛夷川芎も効果はありますが、生薬の麻黄を含んでおり、胃腸虚弱な場合は注意が必要になります。
後鼻漏を自力で治す手段はありますか?
最も効果的な方法は鼻うがいをすることだと思います。薬局やネットショッピングでいろいろな鼻うがいの製品が販売されていますので試す価値はあると思います。
他院で副鼻腔炎の手術をしました。
副鼻腔炎が治った後から後鼻漏の症状が出始めた気がするのですが、手術が失敗してしまったのでしょうか。
手術前に後鼻漏がなかったのであれば手術が失敗ということはないと思います。
①副鼻腔炎が手術で一度治ったが再発をした
②副鼻腔炎以外の他の疾患で後鼻漏の症状を感じるようになった
のいずれかだと思います。後鼻漏の原因はまだよくわかっていないことが多く、原因究明をすることが難しいこともあります。
喉に痰が張り付く
喉に痰が張り付く原因
鼻や喉の粘液の粘性が高くて流れにくい場合、また粘液は正常だが流れにくい粘膜の状態の場合に「喉に痰が張り付く」という症状がでます。
粘液の粘性が高い場合は、副鼻腔炎、風邪(上気道炎)、乾燥、自律神経失調症などが原因と考えられます。また、鼻咽頭の粘膜は表面に目に見えない毛があり(繊毛)、粘液を食道へ流しています。この繊毛の運動が悪い、つまり粘膜の機能が落ちている場合、例えば副鼻腔炎、風邪のあと、慢性咽頭炎、喫煙、逆流性食道炎による慢性炎症、加齢などで喉に痰が張り付く症状が出ます。もともと繊毛機能が悪い線毛運動不全症という病気を持っている方もいらっしゃいます。
喉に痰が張り付く場合の解消法
鼻や喉の粘膜の状態をよくすれば症状は楽になると考えられます。
副鼻腔炎や風邪、逆流性食道炎などの炎症が原因なら、それぞれの炎症を抑える治療が必要になります。
上咽頭に慢性的に炎症を引き起こす慢性上咽頭炎では、上咽頭を消毒する「Bスポット療法」で症状が軽快することがあります。自律神経失調や乾燥などが原因となる場合は日常生活でのストレスを減らしたり、規則正しい生活が送れるようにしたりするとよいでしょう。
なかなか根本的な治療はありませんが、生理食塩水で鼻を洗う「鼻うがい」で症状が軽くなる方もいます。